【プレスリリース 12/5】「あきたこまちR」の生産・流通・認証にIFOAMが懸念を表明 ~国際有機農業運動連盟が農水省等へ「書簡」を送付~

Contents(各目次からリンク先へ)

  1. IFOAMが農水省等へ「あきたこまちR」の懸念を表明
  2. IFOAMジャパンの立場と今後の取り組み(理事長談話)
  3. 参考1:「書簡」の要約 
  4. 参考2:IFOAMと日本の農水省等の見解の重要な相違点
  5. 資料1: IFOAMの「書簡」の英文全文 
  6. 資料2:IFOAMの「書簡」の和訳(仮訳)
  7. 資料3:IFOAMが提唱する「新ゲノム技術のためのグローバル安全性・リスク評価プロトコル」英文全文
  8. 資料4:同上「プロトコル」の和訳(仮訳)    

*この「書簡」の原文と仮訳はIFOAMジャパンのウエブサイトにも掲載。

https://ifoam-japan.org

*「IFOAM」および「IFOAMジャパン」の紹介は以下のページをご参照。https://ifoam-japan.org/ifoam%e3%82%b8%e3%83%a3%e3%83%91%e3%83%b3%e3%81%a8%e3%81%af%ef%bc%9fabout/

  1. IFOAMが農水省等へ「あきたこまちR」の懸念を表明

IFOAM(IFOAM – Organics International=国際有機農業運動連盟)は、

    重イオンビーム育種で開発された秋田産米「あきたこまちR」について、農水省等の関係機関に、11月25日、国際有機農業運動の立場から、安全性やリスク評価の不十分さ、表示、有機JAS認証の不整合等について、書簡を送付し、懸念を表明しました。

    宛先は、

    ・農林水産大臣 鈴木憲和  様 

    ・国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(NARO)

    理事長 久間和生 様

    ・秋田県知事 鈴木健太 様

    「書簡」は、

    IFOAM本部(ドイツのボン)から郵送され、専門機関である「IFOAM Seed Platform」が取りまとめ、当会IFOAMジャパンを含む世界12のIFOAMの地域ネットワークや各国の団体が連名で賛同署名をしています。 (農水省には11月28日着)

    (*11/28大臣官房新事業・食品産業部食品製造課・基準認証室が受理)


    2. IFOAMジャパンの立場と今後の取り組み(理事長談話)

    IFOAMジャパンは、

    今回IFOAMが日本政府に送付した書簡の趣旨に賛同し、その内容を広く共有するとともに、建設的な議論を進めるため、以下の取り組みを有機農業関係者に呼びかけます。

    ① 国内の多様な有機農業関係者を対象に、IFOAM「書簡」の内容説明の集会を開催します(2026年1月下旬予定)。

    ② 農林水産省、農研機構、秋田県を招き、IFOAM関係者および国内の有機農業関係者とともに、円卓会議形式で本件を協議できる場の設置を呼びかけるとともに、これらの取り組みを通じて国内外の関係者が対話を深め、今後の方向性を共に探ることができる場の確保を提案します。

    その趣旨は以下のとおりです。

    1. 生産者・消費者の権利と認証制度の信頼性のために

    国内ではこれまでも多様な生産者や消費者のネットワークから、「あきたこまちR」の扱いに関して同様の指摘がなされてきましたが、関係当局との協議は十分とは言えない状況が続いています。その一方で、「あきたこまちR」は今年秋から市場での流通が始まっています。

    背景には、農林水産省が「重イオンビーム育種は従来の放射線育種と同様でGMOではない」「国際基準上も禁止されていない」と明確にしていることがあります。

    しかし、今回IFOAMが示した問題提起は、日本の従来の考え方と正面から向き合うものであり、また、国内だけでなく国際的な観点からも、放射線育種の位置づけを整理する必要性を示す内容です。

    私たちは、有機農業の理念に照らし、この提起を真摯に受け止めます。同時に、生産者・消費者・認証機関などの間で十分な理解が得られるよう丁寧な議論をすすめ、関係省庁や認証団体、生産者団体、流通団体、消費者団体との継続的な協議の推進に努めます。

    2. 有機農業運動の連帯と信頼を強化するために

    IFOAMジャパンは、多様な立場の関係者が率直に意見交換できる場の確保を重視しています。今回計画している説明集会およびラウンドテーブルは、その第一歩です。

    今回IFOAMが示した懸念と改善提案は、有機農業の理念を再確認し、制度の信頼性と市場の透明性を守るうえで重要な示唆を持ちます。IFOAMジャパンは、国内外の有機農業関係者が共通の理念と理解に基づき課題を解決できるよう、対話の場づくりと協働の促進に取り組んでまいります。

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    3. 参考1 : IFOAM 「書簡」の要約

    本書簡において、IFOAMは、日本で導入が進むイオンビーム育種による「あきたこまちR」について、以下の4点を中心に強い懸念を表明しています。

    IFOAMの主張(おもな懸念点)

    1. 新しい育種技術(Ion beam breeding / NGTs)の安全性に不十分な評価
      • 「あきたこまちR」はカドミウム低吸収の目的で開発されたが、マンガン低吸収という予期せぬマイナス効果が確認されている。
      • 遺伝子変異が劣性であり、品種維持や他品種との交配で望ましい特性が失われるリスクがある。
      • このような農学的・生態学的なリスクに関する十分な評価が行われていない。
    2. 消費者の権利と透明性の欠如
      • あきたこまちRの育種技術はGMOとして扱われるべきものであるのに、表示や追跡が義務付けられていない。
      • 消費者が非GMOを選択する権利が侵害されている。
    3. 有機認証(JAS)との不整合
      • 遺伝子組換え技術は有機製品では原則禁止されている。
      • あきたこまちRをJAS有機認証に含めることは、有機基準との矛盾を生じ、国際的な信頼や輸出市場に悪影響を及ぼす可能性がある。
    4. 従来の遺伝子組換えやNGTsの包括的なリスク
      • NGTsやGMOは持続可能性や生態的利益を十分に提供できず、短絡的解決策に過ぎない。
      • 規制の不備は生態系・人間の健康・消費者信頼に広範な影響を与える。

    IFOAMの要望(具体的提案)

    1. リスク評価の適用
      • 「Global Safety & Risk Assessment Protocol for New Genomic Technologies」(IFOAMのリスク評価プロトコル)を全面的に適用すること。
      • 新規育種技術の環境解放や市場投入前に十分な科学的評価を行うこと。
    2. 表示・追跡の義務化
      • あきたこまちRのGMO表示・供給チェーンでの追跡を義務付け、JAS有機流通との混入を防ぐこと。
    3. JAS有機認証の見直し
      • あきたこまちRを有機認証から除外すること。
      • 将来的にNGTsやGMOが有機基準に含まれないよう保証すること。
    4. 代替手法の推奨
      • 有機・アグロエコロジー的手法の活用を推奨し、化学的・遺伝子改変技術に依存しない持続可能な農業を推進すること。
    5. 政策・規制への指針
      • カルタヘナ議定書など国際規範に沿ったリスク評価の徹底。
      • 新しい育種技術の規制・監視体制の整備。

    4. 参考2: IFOAMと日本の農水省等の見解の重要な相違点  

    1.「あきたこまちR」は放射線育種か遺伝子組み換え食品(GMO)か         

    「あきたこまちR」をめぐって、IFOAMと日本の農水省の立場にはいくつか重要な違いがあります。

    最も決定的な違いは、放射線育種か遺伝子組み換え食品(GMOか、という位置づけの違いです。

    GMOや新規育種技術(NGT)の定義において、日本は放射線育種やターゲット型ゲノム改変であっても、外来DNAを含まない場合は非GMOとして扱います。評価基準としては、従来の「あきたこまちと」比較した項目(成分、タンパク質、形態、栄養成分、食味、収量、胚芽・アミロース含量など)で安全性・品質の同等性を確認したとし、JAS有機認証の適合判断の根拠の一つとしています。

    一方、IFOAMはターゲット型ゲノム改変技術もGMOに含め、技術手法そのものを評価対象とします。Risk Protocolに基づき、科学的評価だけでなく、生態系への影響、農業面での安定性、人間の健康、消費者信頼、国際整合性、倫理・社会的影響などを含む包括的評価を重視します。つまり、IFOAMは有機原則に沿った総合的なリスク・影響評価を行う点で差異があります。

    2 有機認証(JAS)の適合性と表示                                      有機認証(JAS)の適合性については、日本は「あきたこまちR」をJAS有機認証の対象として認めています。一方、IFOAMは、あきたこまちRの改変手法が有機原則に反すると見なし、認証不可と判断しています。この認証の可否も当面の大きな対立軸となります。

    3 市場流通や表示についての立場の違い                                   日本ではGMO表示なしで流通が可能であり、特別な流通管理も求められていません。一方、IFOAMは消費者の選択権確保や市場の透明性維持の観点から、表示義務や流通管理を重視しています。

    また、「あきたこまちR」は特許権に基づいて販売されていることから、購入した農家は自由に自家採種・譲渡等ができず、農民の種子共有権(Farmers’ Seed Sovereignty)を損なう懸念もあります。

    4国際的な整合性

    EUでは新規ゲノム編集技術(NGT)をGMOとして扱い、有機認証への適用は認めていません。米国でも、非有機農産物との交雑リスクや表示・追跡の議論が進んでおり、国際的に消費者の選択権や透明性確保の圧力が強まっています。

    この国際的な動向を踏まえ、IFOAMは日本の農水省や関連機関に対し、リスク評価や認証ルールの国際整合性確保、消費者選択と市場透明性の強化を働きかけようとしています。  

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    6.資料2 (仮訳) IFOAM Seeds Platformからの「書簡」

    (英文本文の脚注は省略)

    日付:2025年11月25日

    件名:農業、生物多様性、公的信頼の保護 — 新規ゲノム技術(NGTs)の一形態であるイオンビーム育種に関する意見

    ——————————————————–

    農林水産大臣 鈴木憲和 様

    〒100-8950 東京都千代田区霞が関1-2-1

    国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(NARO)

    理事長 久間和生 様

    〒305-0856 茨城県つくば市観音台3-1-1

    秋田県知事 鈴木健太 様

    〒010-8570 秋田県秋田市山王4-1-1

    拝啓 大臣、理事長、知事

    IFOAM Seeds Platform¹は、IFOAM – Organics International²の正式承認を受けたセクタープラットフォームです。地域組織および各セクタープラットフォーム³と協力し、オーガニック農業、アグロエコロジー、及び真に再生可能な農業⁴に取り組む世界中の農家、育種家、科学者、企業、市民の広範なネットワークを代表して、本書をお送りいたします。私たちの協力者は、地域の農食システムからグローバルな貿易まで、あらゆる大陸において、幅広い利害関係者や職業分野に及んでいます。

    このたびは、新たな育種技術や遺伝子改変、及びそれらの環境放出に関する懸念を表明するとともに、日本がこれらの分野においてどのように進めるべきか、建設的な提案を申し上げるために筆を取りました。特に、本書では、イオンビーム改変技術によって開発された特許品種「「あきたこまちR」」を取り上げたいと思います。この品種は、土壌からのカドミウム吸収が低い品種を目的として開発されたものです。

    私たちおよび協力者は、エコロジカルで透明性があり、参加型のイノベーションを支持します。また、遺伝子工学に関しては、常に慎重なアプローチ以外の根拠を示す証拠はなく、引き続きオーガニックの原則に沿ったイノベーションを推奨・支援しています⁵。

    そのため、私たちは、生態系、市民の信頼、人間の健康・安全を保護し、企業や食品サプライチェーンを最適に支援するために設計された科学的根拠に基づく実務的な枠組みとして、「新規ゲノム技術に関するグローバル安全性・リスク評価プロトコル⁶」(以下「リスクプロトコル」といいます)を提案します。イオンビーム育種は、標的変異誘発の新しい技術であり、従来長く用いられてきたガンマ線育種とは異なります。この技術は、私たちのリスクプロトコルがカバーする新規ゲノム技術のカテゴリーに該当します。

    表面的には「「あきたこまちR」」が低カドミウム作物を生産することを意図していることは理解しますが、この新規品種の実験室分析に基づく実証的なデータは、少なくとも一つの重大な、意図しない負の影響も示しています。すなわち、作物、家畜、そして人間の健康に必須の微量栄養素であるマンガンの吸収も低下するという点です⁷。さらに、「「あきたこまちR」」に施された遺伝子変化—重イオンビームによるOsNramp5-2遺伝子の単一塩基対破壊—は劣性です。このことは「近交弱勢」を引き起こす可能性があり、品種の維持を困難にし、他品種との交雑も目的とする特性の喪失につながります。その結果、作物が期待される性能を満たさず、農家にとって価値を失い、消費者の期待にも応えられない可能性があります。

    私たちは、「あきたこまちR」のような大規模な環境放出を承認する前に、より慎重な検討が行われるべきであったと考えます。栽培上の不利な点が、当初主張されていた利点を上回る可能性があるためです。その生化学的特性に伴う意図せぬ負の影響—まだ部分的にしか解明されていない—を考慮すると、作物の広範な環境放出と市場への流通を許可する前に、リスクプロトコルを完全に適用する方がより慎重であったといえます。

    また、「あきたこまちR」がGMO品種であることを示す表示や、その流通の追跡が求められていないことについても大いに懸念しています。このため、消費者は非GMOを選ぶ基本的権利を奪われ、農林水産省が必要と判断する追加管理の可能性も弱まります。さらに、農林水産省が「あきたこまちR」をJAS有機認証の対象と判断していることについても懸念しています。種子を含む認証有機製品における遺伝子改変は厳格に禁止されるという原則に基づき、私たちは「あきたこまちR」のJAS有機認証適格性を断固として否認し、農林水産省に対してこの判断の撤回を強く推奨します。

    有機農業コミュニティは、非適合品種(「あきたこまちR」や今後登場する可能性のあるその他の品種)の有機栽培への組み込みを強く拒否します。既知の容認は、IFOAM基準体系の原則や要件との重大な不整合を招き、IFOAMがJASの国際基準との整合性を再評価せざるを得なくなります。また、日本の評判や輸出市場にも悪影響を及ぼし、等価性協定の見直しや貿易の混乱を招く可能性があります。日本の消費者における有機農産物への信頼は大きく揺らぎ、有機市場の国内外での成長を著しく妨げる可能性があります。

    今後、是正措置は実施可能であり、かつ実施されるべきです。即時の対応策としては、「あきたこまちR」のサプライチェーンにおける追跡可能性を義務付け、JAS有機流通から分離された状態を確保することが考えられます。その際、農林水産省から関係者全員への周知を行い、バリューチェーン全体における信頼を確保することが重要です。また、「あきたこまちR」の潜在的リスクに関するさらなる技術的研究—生態学的、栽培学的、及び人間の健康の観点から—も求められます。リスクプロトコルは、関係者が公共の利益を最大化する結論に到達するための指針を提供します。

    私たちは、新規ゲノム技術の科学的開発が進行中であり、将来的に市場化が増加する可能性があることを認識しています⁸。人工知能の能力が加速するにつれて、先見性のある規制はより一層緊急性を増します。私たちのガバナンスも、同様に高度で責任あるものでなければなりません。

    手法や技術⁹もますます高度化しており、政策立案者にとっては、堅牢な規制枠組みの一環として支援・発展させる価値のある重要なツールとなります。

    しかし、私たちグローバル・アライアンスとしては、オーガニック農業の目的においては、新規ゲノム技術(および従来型の遺伝子工学の手法)の使用を引き続き排除しています。これは、遺伝子工学および育種技術に関する私たちの立場表明文書¹⁰に明示されている通りです。「あきたこまちR」の開発に用いられたイオンビーム技術は、まさにこの禁止対象のカテゴリーに該当します。これは、前述の立場表明文書で示されたオーガニックの原則に沿わないためです。

    遺伝子工学には、有効で十分に実証された代替手段があります。例えば、オーガニック農業やアグロエコロジーシステムは、レジリエンス、生産性、生物多様性を向上させることが証明されており、農家の生活を支えることもできます¹¹。遺伝子工学(GMO、NGT、その他の呼称に関わらず)は非常に影響力の大きい技術ですが、「万能の解決策」と考えるべきではありません。現時点でその成果物は、主張される持続可能性の約束をいずれも満たしていません。より包括的な解決策が必要です。

    十分に整った透明性のあるリスク評価なしにこれらのNGTやGMOを認可した場合、最大でも限定的な対策にとどまり、従来の遺伝子工学の応用が生み出した依存と生態系への影響の悪循環を繰り返す可能性があります¹²。リスク評価が不十分なまま市場投入や環境放出を急ぐべきという主張は、生態学的理解が不十分であること、あるいは特定業界の利益のために一般市民が過剰なリスクにさらされる経済的誘因に基づくものである可能性があります。

    さらに、日本はカルタヘナ議定書の署名国であることから、この国際協定と新規ゲノム技術に関する十分なリスク評価の義務を遵守する必要があります¹³。農林水産省には、NGTに関する「グローバル安全性・リスク評価プロトコル」を採用・実施し、この協定に基づく義務を果たすことを強く促します。

    遺伝子工学は、人類がこれまでに発明した中で最も強力なツールの一つであり、場合によっては人類自身よりも強力と言えます。新規ゲノム技術を適切に規制できなければ、生態系への影響、人間の健康リスク、食品システムに対する信頼の低下が生じ、地域および国際貿易に波及的な影響を及ぼす可能性があります。新規ゲノム技術の影響は極めて広範であるため、政策立案者は社会科学と自然科学の両面を考慮に入れる必要があります。私たちのリスクプロトコルは、これら両分野を網羅しています。

    私たちは、リスクプロトコルについてさらに詳細に議論するためのやり取りにいつでも応じる準備があります。また、このプロトコルを農林水産省が日本および国民の利益のためにどのように最適に採用できるかについても協議する用意があります。

    敬意を表して、かつ緊急性をもって、

    (以下、主宰団体代表署名)

    David Gould

    General Secretary, IFOAM Seeds Platform

    Karen Mapusua

    President,  IFOAM – Organics International

    ———————————————-

    (以下、13団体から賛同署名)

    Michiaki Tokue, President, IFOAM Japan

    Mathew John, President, IFOAM – Organics Asia

    Eduardo Cuoco, Executive Director, IFOAM Organics Europe

    Jennifer Taylor, President, IFOAM North America

    Vanessa Ramírez, Treasurer, IFOAM America Latina

    Fortunate Nyakanda, Chair, IFOAM South African Network

    Jacques Caplet, President, IFOAM France

    Dražen Lušić, President, IFOAM AgroBioMediterraneo

    Shamika Mone, President,

    Intercontinental Network of Organic Farmers Organization

    Raymond Auerbach, President, IFOAM Technology Innovation Platform

    Manfred Fürst, Coordinator, IFOAM Apiculture Forum

    Christopher Atkinson, Chair, IFOAM Aquaculture Forum

    IFOAM Animal Husbandry Alliance

    ——————————————————————————

    8.資料4新ゲノム技術のためのグローバル安全性・リスク評価プロトコル

    バージョン1.0(2023年6月)**

    I. 真に責任ある利用

    1990年代半ば以来、遺伝子組換え生物(GMO)が環境中へ放出され、大規模に生産・消費されてきたことにより、生態系、人間の健康、社会経済への深刻な懸念が生じている。
    近年では、新たなゲノム技術(NGTs)の登場、広いアクセス性、相対的な迅速さによって、人類はこれまで経験したことのない遺伝的変化の新たな時代に入った。

    一部の人々にとって、これらの新技術は、健康や環境上の課題に対応する形質を持つ新品種を農業・食品システムに導入することで、人類に利益をもたらす潜在的機会と見なされている。
    しかし、これらの新技術の力にはリスクも伴い、それらが慎重に扱われなければ、生態系やコミュニティ全体に意図せぬ影響を引き起こす可能性がある。

    本書は、あらゆる種類の遺伝子工学によって作出される生物の、より安全な開発および環境放出のための、世界的に採用可能なリスク評価プロトコルと関連倫理規範に関する指針を提案するものである。
    すべての政府は、本プロトコルの要素を自国の規制枠組みに採用し、遺伝子工学の規制に世界的な調和をもたらし、環境的に健全な方法で管理された、より安全な食料供給を確保することが奨励される。

    本リスクプロトコルの基本的前提は、「人為的な工学的手法による介入の行為」こそが、本プロトコルが対象とする範囲を決定するのであって、人為的介入によらない自然発生的な遺伝変化は対象としない、ということである。

    本プロトコルは、全体として一貫した基準と行動の集合として扱わなければならない。
    記述されたすべての基準に十分に対処しない場合、本プロトコルが意図する環境安定性および健康の目的が損なわれる可能性がある。
    したがって、「一部のみの遵守」は受け入れられない。


    II. 倫理

    以下の原則と行為は、遺伝子工学に関するあらゆる形態・利用に関する活動の根幹をなす。

    (注: 1 全てのステークホルダーは本書へのコメントや改善提案を歓迎される。送付先:seeds@ifoam.bio
    注: 2 定義や適用技術のリストは IFOAM 国際本部の「有機システムにおける育種技術の適合性に関するポジションペーパー」を参照)


    1. 意図と目的の通知

    遺伝子工学技術により、環境放出または市場流通が現在または将来意図されるゲノムを開発する計画は、すべて公的に発表され、関連政府当局に対し、新しいゲノムによって意図される結果を知らせなければならない。

    通知には以下を含む:

    • 意図する製品と、その製品によって/を通じてもたらされる変化の説明
    • 想定される用途と利益
    • 使用される技術
    • 最初の環境導入が行われ得る場所の情報

    また、後述の各項目に該当する追加の開発・放出計画が判明している場合には、可能な範囲で併せて開示する。

    開発者はステークホルダーが懸念を提起するための十分な時間を確保し、本プロトコルに列挙される適切な管理およびリスク緩和措置に関する意見を受け付けなければならない。
    開発者はその計画を調整し、遺伝子工学活動を開始する前に透明化する。


    2. 意図せぬ結果の評価とリスク緩和

    開発者による予測およびステークホルダーからの懸念に基づき、開発者は遺伝子工学による意図せぬ影響のリスクをどのように軽減するかを説明する。
    これらの補償的措置はステークホルダーと協議され、インフォームド・コンセントを得るための反復的なプロセスが行われる。

    ステークホルダー間で**合意(持続的反対がない状態)**に至れない場合でも、開発者は本プロトコルのすべての側面に十分に対処したことを合理的に示さなければならない。


    3. 意図したゲノム変化に関する情報へのアクセス性

    遺伝子工学技術の利用者は、安全な導入と継続的な受容性を支えるために、関係ステークホルダーが検出・分析・表現型研究を行えるよう、ゲノムを提供しなければならない。
    特に、環境放出や商業化の前に提供されることが必須である。

    知的財産権は尊重されるべきだが、研究者や規制機関がゲノムおよびその参照ゲノムにアクセスできるようにしなければならない。

    各国で実施される遺伝子工学開発は、国家レベルで維持される登録簿・データベースに集約され、共有可能とする必要がある。


    4. 特許と知的財産権

    現在までに、遺伝子工学の方法や産物(ゲノム編集などの新技術を含む)に関する何千もの特許が出願されてきた。
    これらは食品供給チェーンの全ての主体に、日常的に扱う動植物をどう取り扱ってよいかに関する重大な法的不確実性をもたらしている。

    特許は技術そのものだけでなく、特定の形質・遺伝物質全般をカバーし得る。
    そのため生物学的育種で作られた植物まで特許の対象に含まれる場合がある。

    これは遺伝資源の集中と独占、特許の密集(パテント・スティッキ)を招き、育種の停滞をもたらすおそれがある。

    したがって、NGTs は特許の対象から除外されるべきであり、育成者の知財保護には植物品種保護制度(PVP)を用いるべきである。
    さらに、生物学的方法により育種された製品、または特許保有者の材料を用いずに作られた製品は、特許請求の対象から除外されるべきである。


    5. GMOフリー地域の尊重

    遺伝子工学技術の開発者は、GMOフリー地域の存在を尊重し、それらの地域を意図的に侵害するような活動を行ってはならない。


    III. 禁止領域(ノーゴーエリア)

    遺伝子ドライブの禁止

    遺伝子ドライブは、生態系の均衡や種間関係に予測不能なリスクをもたらすため、いかなる環境放出も認められない。

    食品作物への医薬品遺伝子の導入禁止

    過去の環境中での遺伝子汚染の多くの例から、伝統品種や流通システムへ医薬品成分が混入するリスクがあるため、食品作物に本来含まれない医薬品成分を生産させることは認められない。


    IV. 表現型評価(フェノタイピング)と検出可能性

    新しいゲノムを開発する段階では、意図した効果が正確かつ安定的に発現し、意図せぬ負の影響を回避することが重要である。

    以下を含む基準が必要となる:

    • 新しく工学的に作られたゲノムを、由来品種と区別して検出できる分析方法(公開されること)
    • 新ゲノムと参照ゲノムの遺伝子配列比較
    • オフターゲット変異の特定と、その表現型への影響の評価
    • 統計的に有意で一貫した結果を示す透明なサンプリング計画

    これらは開発者が実施し、第三者機関により再現・検証されなければならない。


    V. 市場前の環境評価

    遺伝子工学品種の開発および試験生産は、環境から隔離された状態で行わなければならない。

    初期生産段階では、花粉などの遺伝物質が環境や他品種へ流出しないよう、厳格な管理が必要である。

    また、

    • 生態系バランス
    • 生物多様性
    • 家畜の健康・福祉
    • 人の健康

    への影響を評価する計画を含まなければならない。

    試験期間中に生じた逃逸や意図しない放出については、全てのステークホルダーに報告し、緩和措置の内容とその有効性を説明する。


    VI. 情報開示、表示(ラベリング)、主張の制限

    遺伝子工学産物はすべて開示されなければならず、消費者や規制機関が適切な判断を行えるようにする。

    • どのような遺伝子工学が行われたかを明確に表示する
    • 遺伝子が残っていなくても、工学的に作られた種またはその派生物が含まれる場合は表示する
    • 環境や健康への主観的な含意は避け、実際に検証可能な形質のみに基づいた主張とする

    VII. モニタリング

    遺伝子工学ゲノムの影響と性能は、最初の環境放出後少なくとも 10年間 モニタリングされなければならない。
    モニタリング報告は公開され、ステークホルダーが救済措置を取れるようにする。


    VIII. 責任(ライアビリティ)

    遺伝子工学品種の放出により他者へ損害(物質的・経済的損失、オーガニック市場の信用失墜など)が生じた場合、
    市場に品種を最初に流通させた者、または
    過早な放出により損害を引き起こした者
    が責任を負う。

    GMフリー地域は、遺伝子工学品種の開発・試験・放出を拒否する権利がある。
    その地域が侵害された場合、公正な経済補償を求める権利を有する。

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    韓国・台湾関係セミナーの紹介

    2025年11月12日(水)午後2時から『第2回グローバルAXセミナー「有機農業 進む韓国・台湾」』が実施されます。現地の有機農業を推進する行政や団体の担当者が韓国・台湾の有機農業の現状ともに、普及・拡大のポイントについてお話するようです。詳細は以下のリンクからご覧ください。

    https://www.agrinews.co.jp/page/globalax251112

    IFOAMのWebinar(英語)のご案内-気候変動時代の有機農業

    IFOAM-Organics Internationalでは、6/30(月)日本時間21時(中央ヨーロッパ時間14時)から「How Can Organic Thrive in Extreme Heat?」と題し、世界的に高温化が進むなかでの有機農業について4名の専門家による英語のWebinarを開催します。ご関心のある方は、下記のリンクから詳細を御確認ください。IFOAM会員でない方も聴講可能です。

    https://www.ifoam.bio/news/how-can-organic-thrive-extreme-heat

    European Organic Congress 2025

    2025年6月25日~27日の日程で、European Organic Congressが実施されます。European Organic Congressは政府の有機部門の担当者や民間の有機関係者が一堂に会し、情報や意見を交換し合う会議です。現状は、2025年2月に新しいVision for Agriculture and Foodが発表されました。これによって、欧州Green Dealで目指していた環境目標の到達が危ぶまれるところ、どう対処するかが大きな関心の的です。

    公式サイト(英語)

    https://www.europeanorganiccongress.bio

    福島アピール 「原発は有機農業と共存できない」~10年前のIFOAMトルコ大会をいま一度振り返る

    For English, please click here.

    はじめに

     10年前の2014年10月。トルコのイスタンブールで開催されたIFOAMの世界大会で、ひとりの日本人男性が会場の演壇に立った。福島で有機農業を営む菅野正寿(Seiju Sugeno)さんだ。

     彼は「原子力発電所は人や有機農業とは共存できない」と聴衆に訴えた。そして「有機農業こそが放射能に汚染された土地を回復させる」と、自分たちの取り組みを世界に伝えた。彼の呼びかけは「福島アピール」と呼ばれ、満場の拍手で採択された。福島原発事故から3年半後のことである。

     私たちIFOAMジャパンは、10年後のいま、 日本と世界の有機農業関係者に、ぜひもう一度この「福島アピール」に注目してほしいと願う。

     なぜなら、2024年12月17 日、日本政府が原発依存のエネルギー政策を再び打ち出したからだ。日本では、2011年の東日本大震災とそれに続く原発事故以降、原発に対しては、「可能な限り依存度を低減する」との方針を取っていたが、一転この方針を転換し、原発を主力電源のひとつとして「最大限活用する」と、明記したのである。

     どうやら日本政府は13年前の福島原発事故による放射能汚染の惨禍を、遠く過ぎ去った「過去の物語」として葬るつもりでいるようだが、それは許されることではない。停止した原発はいまなお放射能汚染物質を除去するメドさえ立たっておらず、避難先から自分の家に帰れない人びとがまだ大勢いるからだ。

     放射能汚染は決して「過去の物語」ではない。これからも続く「現実」なのである。

     だからこそ、その渦中から立ち上がり、「未来へつながる物語」を紡ごうとしている福島の人びとの営みに、今一度注目してほしい。とりわけ有機農業者や再生可能なエネルギーの普及に取り組む人びとの実践に。

     トルコ大会で採択された「福島アピール」には、そのエッセンスが刻まれている。それは「有機農業こそが放射能に汚染された土地を回復させる」という経験に根ざした強い確信である。あらためて世界の人びとに目を通してほしいと願う所以である。

    「福島アピール」

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     以下は、2024年12月8日~9日、IFOAMジャパンのメンバーが福島県二本松市の菅野正寿さん宅を訪問し、インタビューした際のレポートである。本文は日本語原稿とともに英文(準備中)を用意した。「福島アピール」の「今とこれから」を理解する一助にしていただければ幸いである。

                                       

    2011.3.11福島原発事故:核の壊滅的な影響の世界的な象徴

     世界の人びとは2011年3月11日を覚えてくれているだろうか。この日、日本では最大級の地震のひとつが東日本を襲った。破壊的な大地震とそれに続く大規模な津波のエネルギーが日本を代表する原子力発電所群である「福島原発」を直撃した。

     福島には全部で10基の原子炉があるが、このうち3つの原子炉でメルトダウン(炉心溶融)が発生し、放射性物質が大量に環境中に放出された。 周辺の12の市町村に避難指示が出され、最大で16万4865人が避難を余儀なくされた。同時に周辺地域のあらゆる産業が放射能によって壊滅的な打撃を受けることとなった。原子炉はその後すべて廃炉の運命に至っている。溶けたウラン燃料などが冷えて固まったものを「デブリ」というが、これは今も格納容器の中からまったく取り出せていない。

    原発事故後の農業、漁業、環境復興における継続的な課題

     そのなかで、農林水産業が最も深刻な影響を受けたことは言うまでもない。多くの田畑が放射能汚染によって耕作できなくなった。耕作可能な田畑では、農民たちは残留放射能の数値とその後長く闘うこととなる。

     飛散した放射性物質のうち、半減期が比較的長いセシウム134、セシウム137への対応が大きな課題だった。「表土の削り取り」、「ひまわりによる放射性物質の吸収」、「塩化カリウムによる作物への移行の抑制」などが試みられた。除染ができた田畑も増えたが、今だに耕作ができない田畑も残っている。

     山間地の除染は技術的にも難しい。国土の7割が山間地である日本は、昔から近隣の山間地(日本語で里山という)を利用して生きてきた。放射性セシウムは表層に蓄積されやすいことがわかっているので、落ち葉をたい肥に使用するという、従来の方法は困難となった。

     慣れ親しんだ野生の山菜などの汚染はいまだ全容が解明されていない。当然ながら、原木を活用してシイタケを栽培する農家は全滅した。

     農業用水や飲用水の水源となる川からは通常の飲料水の基準を上回る放射線量は検出されることはなかった。これはその後の調査でわかったことだが、ダムの底泥に放射性物質が閉じ込められた結果、川からの流出が極めて低く抑えられた。これは“不幸中の幸い”であった。

     一方、海の汚染は深刻だ。メルトダウンした原子炉のウラン燃料は溶けて、今も温度を下げるために冷水をかけ続けている。当然使用された水は放射性物質で汚染され雨水などと混ざって、毎日約90トンずつ増えていく。この「汚染水」は一定の処理を施され、海へ放出される。政府はこれを「処理水」と呼び安全性に問題はないと言うが、それでもトリチウムのモニタリングは今も継続して行われている。日本国内では政府の言うことに疑いを持つ消費者も少なくない。

    原発事故からの復興に立ち向かう:菅野さんの物語

     にもかかわらず、政府は再び原発を推進するエネルギー政策への転換に踏み切った。福島の惨劇を忘れたかのような政府の”変節”に、多くの人々が憤っている。福島原発から内陸の50km圏内に位置する二本松市で農業を営む菅野正寿さん(66歳)もそのひとりだ。

     菅野さんは、36年前からこの地で有機農業に取り組んでいる。現在は、米、野菜、豆類などを作り、夫婦で餅や赤飯などを販売し、都市住民の農業体験のために農家民宿を提供している。

     原発事故の直後、放射能汚染を避けるために原発周辺地域の住民たちが二本松市に避難してきた。その数は菅野さんの住む二本松東和地区だけで1500人、二本松市全体で3000人にも及んだ。そのため、菅野さんたちは彼らの支援活動に明け暮れた。

     一方、菅野さん自身の田畑の作物は出荷停止となり、農民は農作業を控えざるをえなくなった。 「自分たちの地域が原発事故の影響を受けるなんて思ってもみなかった」と、菅野さんは述懐する。事故直後の3月下旬、ひとりの有機農業者が自殺に追い込まれた。彼の出荷目前のキャベツはすべて汚染され全滅した。30km圏内では営農の希望を断たれた酪農家が自ら死を選んだ。彼は遺書に「原発に負けないで」と書いたという。痛恨の思いであったに違いない。

     事故後、多くの人々が避難を続けた。菅野さんの近隣でも親類や友人を頼って福島を出る人びとが相次いだ。しかし、菅野さんはふるさとである二本松で農業を再開する道を選んだ。

    里山を守る:持続可能な地域づくりへ~菅野さんたちの取り組み

     菅野さんのふるさとは、現在5,256人の人びとが住む二本松市の旧東和町地区の中山間地域にある。日本では「里山」と呼ばれる、人と自然をつなぐ「接点」である。山あいの棚田が美しく、夏にはホタルが水田地帯で乱舞する。

     菅野さんは、震災前から、東京や首都圏の生活協同組合や消費者グループ、さらには私立学校の学校給食用に有機農業の野菜などを直送していた。消費者と生産者の「顔の見える交流」を大切にしたいと思ったからだ。「農業体験」を通じて都市の消費者との交流活動に地域ぐるみで取り組んだ。農家は直接寝泊りできる施設(農家民宿)を併設するようになった。その数は20軒にも及ぶという。東和地区は「有機農業の里」として、里山ならではの風景と地域の人々の生活に出会える魅力的な地域として知られてようになっていた。

     その取り組みは、地域の人びとが協力して周囲の美しい景観と豊かな生態系を維持するコミュニティづくりへと広がっていく。

     産業廃棄物の処分場の建設計画があがったときには反対し、オルタナティブな堆肥づくりの施設を提案した。地域の農産物の販売を促進するための施設(「道の駅」と呼ぶ)づくりを呼びかけ、菅野さん自らがそのリーダーとなった。この施設は地域づくりの拠点となり、地域の人びとの貴重な雇用先ともなった。

    希望の再構築:有機農業の力が原発事故を乗り越える 

     しかし、有機農業を軸としたこの多様な「地域づくり」の取り組みは、原発事故で一気に崩壊の危機に直面した。原発事故直後の3月17日、国によって食品中の放射性物質に関する「暫定規制値」が設定され、3月21日から食品の出荷制限が実施された。

     その結果、菅野さんが栽培する野菜はすべて出荷停止となった。耕せない、農作業ができない、輸送に使う燃料もない。この頃が菅野さんにとってもっとも苦しかった時期だったが、それでも農作業にはいつでも取り組めるように準備だけはしておいた。

     幸いにも、東和地区の土壌の放射能は暫定基準値以下であったため、4月中旬には耕作許可が出た。放射能測定機器を導入し自分たちで汚染の度合いを測り始めた。

     チェルノブイリの経験に学び、深く耕し石灰を撒くなど栽培方法の工夫を重ね、検出値を半減させる結果も出せた。このような取り組みに呼応して、日本有機農業学会に所属する新潟大学をはじめとする4つの大学の研究者たちが協力し、水も森林も含め里山を総合的に調査することとなった。

     この調査のおかげで、有機農家の田畑の場合、その有機物が放射性セシウムを吸着していることがわかった。後の調査で、特に東和地区の土壌は粘土鉱物が多く、セシウムの作物への移行を抑制するカリウムが豊富なことも分かった。これを菅野さんたちは東和地区の「土の力」と呼んでいる。

     4つの大学の研究者たちと有機農家など住民たちは、連携して里山の水源地を含む森林地域、農地の土壌、水、稲、各家庭における食べ物の汚染までをカバーする「復興プログラム」を作成して汚染の実態を解明しようとした。

     その結果、土壌の放射能汚染値が高くとも、作物には微量しか移行しないことを突き止めた。原発事故直後でさえ、ND(検出限界以下)の作物があることがわかり、ようやく光明が見えてきた。

    福島の夢:子どもたちが自由に田んぼを駆け回る持続可能な社会を築きたい

     ところが、放射能汚染に対する消費者の不安はそう簡単には払拭できない。都市の提携先である消費者グループや学校給食などへの販売がストップした。地域づくりの拠点として共同で経営していた販売所(道の駅という)の売上も半分以下になった。

     消費者には、自分たちの測定した放射能の数値を公表し、国の基準を下回る作物であることを説明した。土壌の汚染値を下げる生産者としての努力の数々も説明した。

     「土壌には確かに放射性セシウムが残留しているけれど、深く耕すことなどによって採れたお米や野からは不検出だった」と説明しても、「しかし、土には放射能がある。いくら生産者ががんばっても福島県産の農産物はやはり子どもには食べさせられない」と消費者に言われた。 それでも菅野さんたちは、ねばり強く安全性を追求する努力を続けた。玄米での全量検査は2013年から続け、その後5年間、いずれの年も99%のND(検出限界値12ベクレル)を達成するまでに至った。

     他方、福島では太陽光発電、水力発電、バイオマスなどの再生可能エネルギーに注目が集まった。再生可能エネルギーこそは、未曾有の原発事故を経験した福島にとって喫緊のテーマだった。とりわけ地域社会と共存できる小規模なエネルギーシステムは、菅野さんたちがめざす地域循環型の「ふるさとづくり」にとって、有機農業とともに「車の両輪」となるオルタナティブなシステムだ。

     福島ではいま、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の取り組みがめざましい。これは、農地に支柱を立てて太陽光パネルを設置し、太陽光を農業と発電とで共有する小規模な取り組みである。2023年で福島全県で123か所あるが、2040年には25,000か所に広げ、県内の30~40%の電力需要をめざす計画だという。 このような取り組みを菅野さんたちは、「人間が大切にされる社会への転換」と位置づける。

     原発事故がもたらす禍根は、都市住民と農山漁村との分断を招きながら、今に至る。

     原発隣接地域から福島県外に避難したまま帰れぬ人がまだ2024年12月段階でも19,849人もいる。いずれもが農業と漁業の地域に住んでいた人々だ。

     原発事故前の原状回復を求めて、「ふるさとを返してください。」と訴える裁判は今でも続いている。

     放射線が低減したら生産はすぐ再開できるだろうと思う人はいるだろう。しかしながら一度崩壊した地域社会はそうそう元には戻らない。田畑も長期間放置してしまうと、元のように生産できる状態に戻すことは極めて困難だ。

     原発事故は、自然環境と調和した豊かなコミュニティーを作るという営みをいともたやすく寸断してしまうことを肝に銘じなければならない。幸い、二本松市では、科学者たちの類まれな尽力があった。生産者や住民の弛まぬ努力があった。一部ではあるが地域の土壌条件にも恵まれた。そのおかげで農村の再生は進んでいる。

     さらに、大量生産・大量消費の都市の生活から離れ、身の丈に合った自分らしい暮らしと生き方を求めて福島に移住し、新たに有機農業に取り組む若者たちが増えている。福島県全域で、ここ数年新規就農者と戻ってくる生産者は、年300人を超えている。

     これは大きな希望だ。

     菅野さんは言う。「福島の事故はまだ終わっていないが、次の世代に渡すバトンはできつつある」と。彼はそれを「福島の夢」と呼ぶ。その夢とは、子どもたちが自由に田んぼを駆け回る持続可能な社会を築くことだ。

     2014年、「福島アピール」のなかで菅野さんは次のように結んだ。 「地域社会で結びついた、原子力発電所のない社会をともに築きましょう。」と。

    最後に

     日本政府が原発推進へ大きく舵を切る政策を発表したのは12月17日だった。実はその1週間前の12月10日に、広島と長崎の被爆者たちが2024年のノーベル平和賞を受賞した。1945年から長い苦難に満ちた被爆者や市民の闘いが受賞の対象となったのである。この日、ノルウェーの首都オスローで開かれた受賞式で、被爆者たちのネットワークである「日本被団協」の田中熙巳(たなかてるみ)代表は、「核兵器も戦争もない世界の人間社会を求めて共に頑張りましょう」と、力強く呼びかけた。

     私たちは、田中氏の呼びかけを支持すると同時に、あらゆる生命が最優先される社会では、原発が解決策ではなく現実的な脅威であり、有機農業こそはそのオルタナティブであると提唱する菅野さんとその仲間たちの努力から学ぶべきではないでしょうか。

    IFOAM JAPAN

    構成:野田克己、髙橋俊彰 写真:朝倉宏光

    「2024年IFOAM大会総会報告会」のお知らせ

     弊会では2024年11月30日~12月6日に台湾 嘉義市で行われたIFOAM-Organics International(以下、IFOAM)の大会および定期総会の以下の日程および内容でオンラインで開催します。IFOAMは1972年に発足した有機農業を推進する世界的なNGO機関で3年に一度、大会と年次総会が行われます。それらの要旨を報告の上、参加者3名がそれぞれの視点で話し、その後座談会を開催する予定です。短い時間ですが、ご関心がある方は是非ご参加ください。

    ・日時:2025年2月4日(火)19:30~21:00

    ・実施方法:オンライン (ご参加申込者にリンクをご案内します)

    ・内容

    1.IFOAM大会総会まとめ 30分

    2.参加者からの報告と座談会 60分

    参加者から独自の視線で見た大会や総会について語っていただき、その後座談会形式で話しあいます。

    • 伊能まゆ(NPO法人Seed to Table代表、NPO法人アイフォーム・ジャパン事務局長):アジアからの目線からみたIFOAM大会
    • 吉田太郎(NPO法人 日本有機農業研究会理事):世界的な有機農業の潮流
    • 置塩ひかる(丹波篠山 吉良農園 COO):若い視線から見た地域での有機農業の可能性

    ・参加申込方法

    下記のアドレスから必要事項を記載し送信していただくようお願いします。申込者には別途ご案内メールをお送りします。

    https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSf1jJCAbzi7cLZFBqH9GVR1f43N3ev_ni15Aks8qY65y6z_gg/viewform?usp=dialog

    ・IFOAM大会や定時総会の公式サイト

    IFOAMの大会(英語):https://owc.ifoam.bio/

    IFOAMの総会(英語):https://www.ifoam.bio/about-us/our-network/general-assembly/general-assembly-2024

    IFOAM OWC及び総会のお知らせ

    国際的な有機農業の推進団体IFOAM Organics- Internationalは、台湾嘉義県の南華大学で下記の日程でOWC(Organic World Congress)および総会を実施します。

    Pre-Conferences (ワークショップ、ツアー等): 2024年11月30日、12月1日

    Organic World Conference(テーマに沿った発表、意見交換等): 12月2日ー4日

    総会:12月5、6日

    関連サイト(英文)

    Pre-Conference とOWC:https://owc.ifoam.bio/

    総会:https://www.ifoam.bio/about-us/our-network/general-assembly/general-assembly-2024

    9/16(土)「気候危機と飢餓に対する有機農業の可能性ーこれまでの実践と研究から」のご案内

    9/16(土)10:30~12:45(10:00受付開始)に、標記のセミナーがオーガニックライフスタイルEXPO2023で実施されます。IFOAMの元理事長のグンナー・ルンドグレン氏をスウェーデンから迎え講演を行い、その後学生のパネルセッションを行います。有機農業と環境問題や社会問題、ひいては自然と人間の共生にご関心がある特に若い世代の方々におすすめします。ご興味がある方は以下のリンクから詳細をご覧の上、お申込みください。

    https://ofj.or.jp/ole/seminar/s-7.html

    「第4回有機米生産システム国際シンポジウム」のご紹介

    2023年9月4~7日の日程で「第4回有機米生産システム国際シンポジウム」が開かれます。下記のリンクに詳細な情報がありますので、ご興味がある方は是非ご覧になってください。

    ホームページ:  https://www.agri.tohoku.ac.jp/orp2023/

    開催案内(日本語): https://www.agri.tohoku.ac.jp/jp/news/20220413orfps/

    開催案内(英語): https://www.agri.tohoku.ac.jp/en/news/20220413oripse/

    There will be the 4th International conference Organic Rice Farming and Production Systems held in Sendai, Miyagi Prefecture, Japan.

    Please visit https://www.agri.tohoku.ac.jp/en/news/20220413oripse/ for more information.